西国三十三所は養老2年(718年)、徳道上人が閻魔大王に起請文と宝印を託されたことが始まりとされる、日本最古の巡礼道です。
聖地巡礼、寺社詣りは、今やお年寄りの余暇ではありません。
カップルから家族連れ、若者たちの観光スポットとしても、日本の神社仏閣を訪れる人々は後を断ちません。
その一方で、御朱印を頂く納経所でよく見かけられる、「御朱印はスタンプラリーではありません」の注意書き。
「軽い気持ちじゃ罰当たり?」「何か作法があるのかしら?」と不安に思われる方も多いでしょう。
でも「信仰心」とは個人の心にあるものです。
自分がしていることの目的と由来を理解していれば、さほど難しく考えることはありません。
西国三十三所めぐりは順番に回らなくてもいい!?
西国三十三所めぐりで悩むのは、やはり「順番」ですよね。
なまじ番号が付いていると、「順番通りが正しい?」と思うのが人情です。
しかし、この順番が定められた理由は諸説ありますが、「三十三箇所」が確定したのは、15世紀も半ば頃だとか。
やはり鎌倉時代以降、仏教が広く庶民の間に広がり、室町中期頃には「巡礼」の担い手も宗教者から庶民へと移っていったといいます。
そのため、自ずと明確に「札所」として定める必然が生まれたのでしょう。
信者、参拝者の数が寺院経営において死活問題なのは、古今東西同じこと。
あいまいにしてる場合ではなかったのでしょうね。
一説によると、「江戸から参拝しやすいルートになっている」とも。
確かによくよく順番通り辿ってゆくと、東国からまずは「伊勢参り」を目指します。
伊勢路から紀州、熊野を詣でて北上すると、泉州から奈良、近江、京へ入り西へ、北摂を通って播州、そこから縦断して天橋立へ、舞鶴を通って、琵琶湖の北端「竹生島」。
湖東を下って街道に入れば、岐阜の華厳寺でゴール。
そのまま信州長野の善光寺さんでお礼参りをしてから、江戸へ帰るというのが通例になったとか。
見方によっては「江戸っ子の西国くまなく観光ルート」ととれなくもないですね。
札所の番外寺院は近年でもまだ変動があるとかで、専用の御朱印帳も、購入するものによっては明記されている寺院が違ったり、あえてフリースペースにしているものもあります。
こうして考えると、特別な願掛けや教義上の理由などなければ、あまり気にする必要はないということです。
西国三十三所の効率的な回り方は?
お住まいがどこかにもよりますが、エリアを分けて1日2~4箇所を目安にスケジュールを立てると行きやすいでしょう。
そのエリアごとで札所の順番通り辿ってみると、沿線的にも行きやすいルートになっていることが分かります。
「道」とは通る者が多ければ多いほど、変わらないものなのです。
ご参考までに、大阪市内中央区を起点に「基本、日帰りで」「公共交通機関と徒歩」を条件に可能なルート分けをします。
<泉州エリア> | 4番(施福寺)→3番(粉河寺)→2番(紀三井寺) |
<南奈良エリア> | 5番(葛井寺)→6番(南法華寺)→7番(岡寺龍蓋寺) |
<奈良エリア> | 8番(長谷寺)→番外(法起院)→9番(興福寺南円堂)→番外(東大寺二月堂) |
<宇治エリア> | 10番(三室戸寺)→11番(上醍醐寺) |
<大津エリア> | 12番(正法寺)→13番(石山寺)→14番(三井寺) |
<京都エリア> | 15番(観音寺)→16番(清水寺)→17番(六波羅密寺)→18番(頂法寺六角堂)→19番(革堂行願寺) |
<京都西部エリア> | 22番(総持寺)→20番(善峯寺)→21番(穴太寺) |
<阪急エリア> | 23番(勝尾寺)→24番(中山寺) |
<播州エリア> | 25番(播州清水寺)→番外(花山院菩提寺) |
<姫路エリア> | 26番(一乗寺)→27番(円教寺) |
<日本海エリア> | 28番(成相寺)→29番(松尾寺) |
<琵琶湖東エリア> | 31番(長命寺)→32番(観音正寺) |
<岐阜エリア> | 33番(華厳寺) |
残る1番と30番ですが、1番の青岸渡寺は日帰りは無理があります。
泊まりで熊野三山巡りと思って計画した方が効率いいです。
30番の竹生島宝厳寺は、船でないと行けません。
彦根や今津からも船は出ていますが、正直高い!
こちらは、泊まるつもりで計画した方が良いでしょう。
ちなみに琵琶湖北部の宿泊所で、宿泊客限定で船を出してくれました。
しかも6人以上だと料金頭割り!
小型船なので、天候や人数など条件次第ですが、問い合わせる価値ありです。
西国三十三所めぐりの難所とは?
物理的難所は、上記の赤色の付いたお寺です。
- 1番(青岸渡寺)
- 4番(施福寺)
- 7番(岡寺龍蓋寺)
- 8番(長谷寺)
- 29番(松尾寺)
- 31番(長命寺)
- 32番(観音正寺)
- 番外(花山院菩提寺)
もちろん、車で行かれるなら別ですよ。
但し、季節によっては車道は閉鎖だったり、場所が違ったりするので必ず事前確認を。
公共交通機関をご利用のかたは、1日の移動タイムスケジュールは入念に下調べを。
特にバスは本数の少ない場所がほとんどですが、そのエリアの札所巡礼が可能なように、バスの運行が組まれています。
つまり、バスの時刻表から計画を立てると悩まずにルートが組めます。
例えば、最寄りバス停から本堂まで、結構な距離を歩かなくてはいけないとします。
しかし、戻りの時刻表を確認して1時間~2時間後の便があるとすると、お参りに行って戻ってにかかる、おおよその所要時間が想定されているということです。
そして恐らく、ペースの遅い人を基準に設定されているはずなので、「慌てなくても大丈夫」ということなのです。心強いですね。
車があってもどうにもならないのが、4番の施福寺です。
山上の駐車場からも門前のバス停からも、30分以上の石段を登らなくてはなりません。
ここはもう覚悟決めてください。
15番~19番はほぼ京都の街中を巡ることになります。
山歩きのような厳しさはありませんが、端的に距離が長いので体力はいります。
街歩きがつらい方は、分けてもいいかもしれません。
古いお寺ほど山岳修行と深い関わりを持つので、自ずと険しい立地になります。
京都や奈良の街中にあるお寺以外は、何百段もの石段か山の参道が当たり前と思っていてください。
しかし、あえてこの道を徒歩で行くのも巡礼の醍醐味。
普段、分刻みに時間に追われる生活が日常ならなおのこと、ヒイコラ言いながらも一歩一歩、急がず確実に踏みしめて本堂へ向かう時間はいいものですよ。
ヘトヘトになってようやく本堂へたどり着き、ご本尊に手を合わせた時に自然と湧き上がる感謝と敬虔な気持ちは、この上なく豊かな時間です。
西国三十三所の番外札所とは?
西国三十三所には「番外札所」と呼ばれるお寺があります。
1番から33番までの番号は付いておりませんが、西国三十三所を創設したとされる徳道上人と西国三十三所を盛り上げたとされる花山法王、この二人とゆかりの深いお寺を番外札所と呼ぶのです。
番外札所はいくつかあるのですが、定番は3か寺です。
- 徳道上人が開いたお寺、奈良県の法起院
- 花山法皇が出家し、法皇になったお寺、京都の元慶寺
- 花山法皇が住んでいた兵庫県の花山院菩提寺
特に花山院菩提寺は西国三十三所巡礼で別格の聖地とも呼ばれています。
さてこの番外札所はあくまでも番外であるため、番外札所へは寄らずとも「満願」は可能です。
そのため必ずしも行かなきゃいけないというお寺ではありません。
しかし、時間に余裕があるのであればこの番外札所も巡るのがオススメです。
理由は大きく分けて3つ。
まずは、とにかくこの番外札所は、西国三十三所の創始者と立役者という欠かすことのできない人物のゆかりが深い寺院。
訪れることで西国三十三所をより深く知ることができます。
次に、ほとんどの専用御朱印帳に番外札所分のスペースがあるという点です。
番外札所を巡らなかった場合、満願となった御朱印帳のはずなのに空白が出来てしまいますね。
最後に比較的札所の近くにあるから。
法起院は8番から徒歩ですぐ、元慶寺は醍醐寺とセットで行ける、といった具合に三十三所巡礼の中で立ち寄ることが出来る位置にあるのです。
西国三十三所の御朱印帳はどこで買う?
実は西国三十三所巡礼は御朱印帳の原点とも言われております。
もともとは「その寺で写経を行い、それを納めた証明として朱印をいただく」というもの。
なので西国三十三所では御朱印のことを納経印、御朱印帳のことを納経帳と呼びます。
(当解説では御朱印、および御朱印帳と称します。)
もちろん専用の御朱印帳ではなくとも西国三十三所巡礼はできますが、専用の御朱印帳は満願した際に「極楽浄土へのパスポートになる」と言われています。
できれば専用の御朱印帳で巡礼を行いたいものです。
そんな西国三十三所巡礼専用の御朱印帳は、西国三十三所の札所となっているお寺で購入できるほか、インターネット通販でも購入できます。
なぜ「三十三所」なのか?
これは観世音菩薩が衆生救済の誓願により、救う者に応じて三十三の姿に変化すると記された「妙法蓮華経観世音菩薩普門品」からきています。
つまり「観音霊場巡礼」なのです。
「南無観世音菩薩」の心をお忘れなく!
御朱印をいただく場合は、「御朱印」が何たるものかも自分なりに理解しておきましょう。
昔は写経を納めた証、ということから「納経所」で頂きます。
また、印はご本尊そのものでもあるという捉え方もあります。
ご本尊にお参りをして、ご縁を結ぶのが本義という点は外さないように。
細かい作法などは、宗派や個人の見解など、立ち位置によって微妙に違うので、オーソドックスなものをいくつか参考に、ご自分のスタイルを決められると良いと思います。
意外なところで、札所の中でも大き目の、有名寺院の社務所の寺員さんなどは比較的ニュートラルな立ち位置から、ご意見をくださる方もいらっしゃいます。
もちろん、お忙しいときや人にもよるので、弁えましょうね。
最初は御朱印集めやちょっとした趣味から始まったとしても、こうした巡礼をしているうちに、今までになかった何かが自然と湧いてきます。
自然と手を合わせたくなるような、他人への慈しみを覚えるような。
それが「仏性」といい「信仰心」といい、あるいは「祈りの心」というのでしょうか。
人間の最もピュアな部分ではないかと思います。
「流行りに乗っかるみたいで、なんだか不謹慎」と感じてらっしゃる方も少なくないかもしれません。
でも、まずは訪れてみてください。
現代に生きて、忘れかけてたものを思い出せるかもしれません。
まとめ
1300年もの歴史を誇る日本最古の巡礼。
そんな西国三十三所巡礼を行うのであれば、しっかりと計画し実行したいものですね。
寺院はどうしても山を登ったりと難所にあったりもします。
せっかく挑戦するのであれば、無理のないスケジュールを組み、後悔のないような巡礼にしましょう。